ピコ森 メル友掲示板

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blue-blue-blue.【短編集】

1: ゆと☆2012/12/01(土) 15:38:09 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
初めて小説を投稿します。
変なところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


83: ゆと☆2013/03/06(水) 16:55:27 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「ごめん、鹿神」
「…なに謝っとんねん。暗いわ。あとアタシをとりあえず謝っとく対象にしてんのやったら許さへんよ」
「……それもごめん」
「別に気持ちわかるし怒らんけどな………んっ?」

それまでのムードをぶち壊し、鹿神は顔を上げた。

「え、何」
「今四月やろ?なんで雪が降ってんの?」
「はぁ?」

ホームから見える空を覗くと、ああ本当だ、雪が降っている。

「別に普通じゃん」
「異常気象やで!?」
「七月までなら普通に降ったりするよ」
「それもう夏の領域やん!ワケわからんでー!………この地で生きて行ける気がせんわ」
「え、今どこに住んでるの?」
「山の上のでっかい洋館あるやろ、あそこがアタシの新しい施設や。まさか大阪にとんぼ返り出来へんしな」
「大変だね」
「いやぁもう、大阪のみんなに『空はいつでもつながっとるでー』みたいなカッチョええ話したのになにこれ。この空、まるで別物やん。どれにつながっとんのよこれは」

ああ、そう、このカッコつけ。
そんな返しをして曖昧に笑う。

どこにも繋がっていない空から、嘲笑ってる?励ましてる?よく分からない、私達に解釈を委ねた雪は降り続けている。

繋がるときは来るだろうか。
繋がるときが来ればいい。

もしそのときが来たなら、第三章節のシ、今は吹けないあの場所は、この手で、必ず。


***
こんな話を書いておいてアレですが、
「設定のため、展開のため」という名目でキャラを殺せる作者にはなりたくなりません。




84: ゆと☆2013/04/09(火) 15:14:20 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
こんなものが残っていたので。
季節はずれな話。

***

夏が来ると、まだ、元気だったころのおばあちゃんを思い出す。

花火をひとり占めした僕に、私は線香花火でいいよと微笑むおばあちゃん。

来年、あなたが大人になったら、一本もらうわ、と手を伸ばしたおばあちゃん。

そして、結局来年の夏など、来なかったおばあちゃん。

果たせなかった約束を、僕は花火を筆に持ち替えて果そうと思って、それから、





ききょういろ花火




85: ゆと☆2013/04/09(火) 15:15:34 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

「・・・さすが、美術部だね」

と、今田さんの鈴のような声がする、そして、僕はドキドキして指が震えながら筆を動かすのだ。

「そんなことないよ、あ、」
「もっと自信持ちなよ。とても上手いんだから、この看板」

ああ、ありがとう、が言えなかった。

そうして僕は、飲み込んだありがとうを筆にききょう色とともに沁み込ませて、紙にばあん!と打ちつける。

今田さんの声を聞きながら、美術部ってこんなにも文化祭でいろいろするものなのかー、と疲れた体で冷静にしみじみ感じていた。
高文連で絵を描く、パンフレット用に絵を描く、それだけでも割と重労働なのに、おのおのクラスで看板作りを頼まれてしまったりする。

そして文化祭二日前で僕に看板を任せてクラスメイトは全員トンズラしている。
残ったのは、文化祭実行委員の今田さんだけ。

もう、夕焼けがまぶしいんだけど。
誰かが戻ってくる見込みもないんだけど。

「美吉くん、なにか手伝えることある?」
「ううん、いいよ、大丈夫だから、」
「いやー、悪いよ。とりあえず、片付けまでは手伝うからね」

大丈夫だから、女の子は先に帰って、と言えなかった。
ばあん!

「面白い塗り方するねー。こう、ばーん!ってすごい音するよね」
「ああ、うん、昔からの癖で、」
「へー、すごい、昔から描いてたんだー」

飛び散ったらごめんね、と言えなかった。
ばあん!


86: ゆと☆2013/04/09(火) 15:16:43 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「これ、何色?・・・紺?」
「一応、ききょう色」

そう言って今田さんはパレットをつつく。

「・・・あ、指に付いちゃった」
「・・・水道で、」
「ていやー」

洗い流してきなよすら言わせてくれなかった。
ばばあん!

何を思ったのか、今田さんは指にききょう色を塗ったくる。
看板作りに付き合ってくれる人なんて変だな、と思っていたけれど、この女の子、超変だ。
かまわず看板を塗ろう、そうしよう。

「美吉君、見て見て!」
「え?」

ベニヤ板から目を離して、今田さんを見ると、今田さんは手で三角を作っていた。

「じゃーん!」
「なにそれ?」
「覚えてないの?『きつねの窓』!」
「は?」
「・・・もしかして美吉君の小学校って『きつねの窓』やってないところ?」
「え、なに、それ」
「猟師が森で染物屋の子ぎつねに会って、その子から『指を青く染めて窓を作ると、会いたい人が見える』って教えてもらう話」
「・・・やったかもしれない」

しれないけど、正直きつねの話は『ごんぎつね』がダントツで印象深い。

僕がそう思いながらベニヤ板に気をとられていると、その間も今田さんは指でできた窓から風景をずっと眺めていた。

「この色がききょう色だったから、思い出して」
「ふーん・・・」
「美吉君もやってみなよ、はい」

いきなり手をパレットの中に突っ込まされた。え、え、発言権もないの、そうなの。

「・・・その話ってさ、」
「うん?」
「最後、どうなるの?」
「・・・どうだったっけねー」

オチすらなかった。


87: ゆと☆2013/04/09(火) 15:18:00 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

僕が看板の続きをやるかどうか悩んでいる間に、その思考をぶった切って今田さんが「あ」と声を上げた。

「見えなくなっちゃうの。手を洗って、ききょう色が落ちて、会いたい人が見えなくなる」
「ふーん・・・」

それなら駄目だな、すぐに見えなくなる。美術部で、習慣的に手を洗ってしまうから。

「ほら、美吉君も見てみなよー」
「・・・うん」

そう言って僕はききょうの指を見つめた。何も起きやしないだろう、と思いながら、学校の窓越しに指の窓を作って覗く。

「ん?」

星空、満天の星空。
・・・まだ5時30分。
7月のこの時間で、星空になんかなるはずないのに。
え、え、あれ?
思ったことを声にも出せずに、不思議に思って見続ける。
下を見ると、堤防に佇んで花火をしている小さい僕が見えた。

「今田さん・・・」

声が震える。言いたいことは、言えるだろうか。

「み、みえる」
「そうでしょ?」
「あ、あ、あ、会いたかった人が、み、みえ、」

おばあちゃん!
まだ元気で、動けた頃のおばあちゃんが笑っている。


88: ゆと☆2013/04/09(火) 15:18:53 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

おばあちゃん!
声は出ない。
声が出せなくて、喉の奥が震えては、口の中に届くまでに消えてしまっていた。
僕にきれいな花火の全てをやって、自分は線香花火でいいよと言ってくれた頃の、おばあちゃんが、

「ああ、あ、今田さん・・・」
「不思議だよね。私もねえ、まだ森で待っている弟が見えるの」
「・・・森で待っている?」

僕が聞き返した瞬間、今田さんはハッとしたようにこちらを見つめる。

そうして全てを諦めたように、今田さんは美しく笑った。

「そうだよ、私は森のきつねなんだよ」
「は、はあ?」
「私を信じてくれて、ありがとう、ね」

そう言って、今田さんは僕の目の前で、指の窓を作ってくれた。
僕が飛ばした打ち上げ花火を見ながら、笑っている、おばあちゃんが。

ばあん!

「花火は、おばあちゃんに届けてくるね」

その声を残して、ばあん!と打ち上げられた花火とともに、今田さんは煙のように消えた。


89: ゆと☆2013/04/09(火) 15:20:37 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

それから結局、呆けて看板を完成させられることが出来なかった僕は前日にみんなを頼って、それでもみんなは意外なほど手伝ってくれてようやく完成した。
文化祭テンションもあったのか、さらりと許された。

今田さんに言われた通り指は洗わなかったものの、看板を作っている最中で赤やら黄色やら次々と違う色に染められてしまった指は、もうおばあちゃんを映さなかった。

「美吉って、塗り方丁寧だよな」
「そ、そう?」

クラスの話したこともない男子が僕に話しかける。
え、え、ちょっと待って、言いたいこと言えるのか僕は?

「うん、音もなく、すーっ、って描いて、」
「え?そうかな?」
「出来た絵もきれいだしさー」
「ありがとう」

言えた。言いたいことが言えた。
あれ?僕こんなんだっけ?

僕の疑問を余所に、クラスの男子はどんどん話しかけてくる。

「美吉がこんなにすごい奴だなんて、知らなかったよ」
「それは、今田さんが居てくれたから・・・」
「今田?・・・誰?あ、他校の彼女?美吉も隅に置けねえな!」

今田さんが居なくなっている。
そういえば朝から見ていないけれど、まさか・・・正体がばれたから?

「・・・きつねの窓」
「何?いきなり。てか懐かしいなー」

これでしょ?と、男子が僕の目の前で指の窓を作る。

その先には、名前も知らない男子、それから、準備を進めるクラスメイトが見えた。


***
たまに「きつねの窓」を読み返してはしみじみしてしまいます。いい話です。


90: ゆと☆2013/04/21(日) 13:21:12 HOST:softbank221046122127.bbtec.net


人間失格、という名誉な烙印


私は、その男の写真を三葉、みたことがある。
とにかく、そいつは写らない男だった。
姿かたちを写し取られるという行為が苦手、だったのか―――それは彼の「授業ボイコットが得意」という特徴によく現われていた。

さて。
そんな彼が一枚に収められているという貴重なシチュエーションを、とにかく私は三度経験したということである。
一葉目は、図書を借りる際に提出する学生証に貼られた証明写真。
おそらく入学前に撮ったものだろうが、金色に輝く不安を押しのけるような、とにかく無愛想な写真である。
浮ついた(もちろん、彼のまなざしから見て)世界全てを否定するような顔だった。



91: ゆと☆2013/04/21(日) 13:21:57 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

二葉目は、うっかり彼が体育祭のリレー選手に選ばれてしまった時の写真。
「他人に視認されること」を極端にいやがっている彼が、その時は上手くいかなかったのだろうかうっかり花形競技の選手として目立ってしまった時の写真だ。
不器用な子なんだろう、最下位に転落して悪い意味で目立つということも出来なかったので、他のクラスの、頬のぴかぴかした少年と一緒に並んで走っている。
しかし何の因果か、スポーツ系の部活をしている子達に混じると、彼の細く生白い脚は蛍のように淡く光って目立っているのであった。

そして、これが最後の写真だ、三葉目。
卒業アルバム。
これが、他の二葉の写真とは異色の空気を放っている。

満面の笑顔、だった。

その写真をみた者全てに彼の高校時代の鮮やかな青春の幸福を思わせる、とても素敵で、思わず彼の頭を撫でてやりたくなるような―――そんな写真。

***


92: ゆと☆2013/04/21(日) 13:22:25 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

けれど、私は知っている。

入学時にはあんなにも、世界全てを否定して、おれを視た者全てを射殺さんという意気が伝わってくるような眼をしていたのに、卒業時にはすっかり全ての毒気が抜かれたような顔をして、にこにこ平和に縋るように笑っていたのは、

きっと、私のせいだ。

***


93: ゆと☆2013/04/21(日) 13:22:59 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

彼はとてもユニークな少年だった。
教室の隅っこで必死に太宰治を朗読しているような少年だった。
私は彼の空回ったひたむきさを評価したけれど、クラスメイトはそうもいかず、彼を迫害―――今どきの高校生の迫害の些細さは見事なもので、私のような鈍くさい人間はあっさりと欺かれてしまった―――したようだった。
しかし、彼の心の太宰はとても強く、彼の柔らかな心を少なからず包んでくれていたようだ。
クラスメイトに言われる言葉全てを、朗読で返すという思い切ったことをしていた。

***


94: ゆと☆2013/04/21(日) 13:23:38 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「ねえ、先生」

彼の声を、私は初めて聞いたように思う。
クラスメイトの声を遮り、担任の女性教師にいきなり話しかけてきた。

「ねえ、先生」
「なあに・・・」
「駄目だね、人間も、ああなっては、もう駄目だね」
「え、」

それは、とんでもない先制攻撃だった。
彼自身の言葉ではない。
しかしながら、その言葉は彼の意志を持ってクラスメイトを攻撃したのだった。

「いけないわ、『駄目』なんて言葉で他人を否定しては」

担任の軽くたしなめる声を機として、彼は―――

「・・・どうやら、『世界』は・・・喜劇名詞のようだ」

そう言って、彼は、普通に笑顔を見せるありきなりな少年へといきなり変貌した。

***


95: ゆと☆2013/04/21(日) 13:25:14 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「何か面白い本ない?貸してよ」

昼休み、私はいつも図書室にいる。
それを見越して、いつも彼はそんな切りだしで私に書をせびった。

「変わったわね、あなた」

私が問いかけると、彼は入校許可証のカードを揺らして笑った。

「そんなことないよ。俺は、ずっと、先生の気を引きたかったんだ。だからあんなことを・・・。でも、先生に言われて僕は、世界が変わった。世界の見え方が。」

要は私の言葉一つで彼の人間性を一気に変えてしまったということだ。
そんなことにも気がつかなかった、私は、まるで。
・・・。

「ねえ、そういう生徒って、神様みたいにいい子でしょう」

にっこりと、しかし不穏に微笑む彼に私はすかさず睨みつけた。

「・・・ああ、なんて嫌な子どもなの」


***

私の教え子は人間失格のようだけれど、どうやら私の方が人間失格みたいだ。
それでも私は彼の手を撥ね退けることはできない。

神に問う。無抵抗は罪なりや?

***

文体を思いっきり変えてみました。
太宰治なら正直「斜陽」の方が好きです。


96: ゆと☆2013/05/05(日) 20:16:51 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

真っ白な入道雲と、真っ青な僕ら人生の春

***

「ああ、分かる。私、相手に一本入れた瞬間がそうだもん」

「そう!!シュートが決まった瞬間!!分かってんなあ」

「合奏で音がきちっと合った瞬間とか、確かにそうなる時があるね」

「ボクは数学かなぁ・・・難しい問題がすぱーっと解けたときとかね」

「え、えへへ。言わなきゃ駄目?カレシとね、以心伝心?っていうの?したときかな!」

***

―――青春だ、青春だ。私たちの人生は青い春だ。
部活だ恋だ勉強だ。
かくいう私だって、多分「今青春してる?」って聞かれたら、きっと「はい」って答えてしまうと思う。
そのくらい青春だ。
だって17歳だもん。
青春だ。
青春だ。



97: ゆと☆2013/05/05(日) 20:17:32 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

「―――なんだよ、青春って・・・」
「お疲れ、清香。取材終わったの?」
「あとは松永君に話を聞くだけです・・・」
「何部だっけ?」
「野球部」
「そっかー」

夕暮れの図書室は、風情があるけど少し怖い。
私が校内を駆け巡り、我が根城(図書室)に戻ってきた時には既に5時を越えていた。マジか。
私の疲れとは正反対に、ミユキは目の前で新刊を優雅に読んでいた。
この取材、別に個人的なことだからいいんだけどね。いいんだけどね。

「ねえ、そんなに悔しかったの?」

ハードカバーに埋めていた顔を上げて、ミユキが出し抜けにそんなことを問いかけてきた。

「何がだよ」
「小説新人賞に落選したこと」
「・・・。」
「悔しかったの?」
「・・・いや、別にね?あの、大賞取ったのが、同い年の子じゃなかったら悔しくなかったよ。でもね、17歳だよ。17歳で文壇デビューだよ?なんか納得できなくない?」
「悔しかったの?」
「・・・悔しかったです」




98: ゆと☆2013/05/05(日) 20:18:12 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

そう、悔しいのだ。
私は小説家になりたいと、ずっと思っていた。
小さい頃から小説家になりたいと思っていた。
なのに、横から夢をかっさらわれたみたいな、そんなのって。

「で、相手さんの小説を読んでみたら理解できないところがあったと」
「はい」
「その正体を探るために、ここ数日取材を繰り返していると」
「はい」
「清香」
「はい」
「あんた粘着質だねぇ」
「・・・」

そうです私は粘着質です。
でもそれって作家になるには大事なことだと思うの。
粘り強いって絶対に作品を書いていく上で大切なスキルだと思うの。
と、何度説いてもミユキは分かってくれなかった。
読み専にこの気持ち分かってたまるか。



99: ゆと☆2013/05/05(日) 20:18:56 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「だって、見てよこの描写」
「・・・何度も見たよ」
「『私がヒットを打ったその瞬間、世界は真っ白になった』・・・ってなんだよ真っ白ってー!なんねえから!!世界、色彩に満ち溢れまくってるから!!」
「清香」
「はい」
「だから、それ何度も聞いたって」
「・・・だっておかしいと思わないのー!!」
「思わないよ、分かるよそれ」
「・・・分からないなあ!!」

『真っ白な入道雲と、真っ青な僕ら人生の春』というタイトルのそれをもう一度見直す。
・・・ていうか何だそのタイトル。
長けりゃウケると思ってんじゃねえぞ。

物語は至って普通。
ソフトボール部に所属するヒロインが、恋や友情その他の問題を乗り越えながら全国を目指す青春ものだ。
はっきり言ってこの手の小説は食傷気味だ。
私なんて、構想2年執筆2週間のハードボイルド超アクション大作を描いたというのに、この差。人生はままならない。

「じゃあさ、ミユキはどんな時に世界が真っ白になるの?」
「それも昨日聞いたじゃん」
「何度も刷り込みしていくことが大事だからね」
「・・・。物語に没頭したとき。こう、目の前のもの以外見えなくなってくっていうか」
「―――。ねーよ、そんなとき!いつでも私は冷静に世界を見てるよ!!」
「そうかなぁ」
「そうだよ!!」
「そうかなぁ・・・」

そう。私はいつだって冷静だ。
それは執筆活動の時も変わらない。
いつだって冷静に自分の文章を見返し、いつだって冷静に伏線を張っている。
私、超冷静。



100: ゆと☆2013/05/05(日) 20:19:39 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「・・・で、松永君、何時ならいいって?」
「明日の昼休み」
「あんたも頑張るねえ」
「夢のためにはね」

ミユキの唇から、小さなため息が漏れた。何で?

「よかったね」

言葉は妙にとげとげしい。

「何が?」
「野球部って、明日練習試合で忙しいはずじゃん。なのに取材を引き受けてくれたんでしょ」
「そうなの?」
「うん、うちの学校のグラウンドでやるから、設営もするんだって」
「へー」
「同じクラスじゃないの、あんたら・・・」

そうとは知らずに悪いことをしてしまった。
ごめんね松永君。ありがとう松永君。

「あ、そういえば感想来てたよ」
「うそ!!マジで!?」
「はい、これ」
「いえー!!」

私は月に一回発行される「図書部便り」にポエムを連載している。
小説を書くためには、どんな形でもいいから人の目に触れるといい、とどっかのハウツー本に書いてあった。夢のためには実行である。
私、超えらい。

そして図書部員たるミユキは、毎月届くポエムの感想を私に届けてくれている。


101: ゆと☆2013/05/05(日) 20:20:24 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「・・・。『回りくどいです』『読むのが面倒くさいです』『飽きました』」
「それ、読者の素直な声です」
「こいつら、私の芸術性を分かってないっ!!」
「清香は読者の普遍性が分かってないよ」
「なんで!」
「いや、だって。あんたのポエム、結論に行くまでに何度も曲がり角してるんだもん。修飾語多すぎ。読むのめんどくさい」
「分かってないわ・・・」
「感想出してくれるだけありがたいと思いなよ」
「ていうか毎回国語の先生たちの感想じゃん!字で分かるよ!これ、情けだよ!」
「あ、もう一枚あった」
「えっ?」

手渡された、ノートをちぎっただけの小さな切れ端を受け取る。
綺麗じゃないけど、丁寧に書かれた文字が踊っていた。

「・・・おおー」
「なんて書いてあったの?」
「『あなたの真っ直ぐな気持ちが伝わってきます』、だって!私のやってることは間違いじゃないよ!」
「変な人もいるんだね」
「これ、持って帰ってもいい?」
「全部持って帰りなよ」
「いや、これだけでいいよ」
「・・・そういうところが駄目なんだよ、あんた・・・」

そう、私はこんな言葉を待っていた。
読者からの真摯なファンレター。そして私は「励みになります」とか書いちゃう。


102: ゆと☆2013/05/05(日) 20:21:03 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

「やっぱり、ホームラン打った瞬間かなあ」
「・・・みんなそういうんだよ」

翌日の昼休み。私はメモ帳を持って松永君の席の前で取材を敢行していた。

「佐藤さん、経験したことないの?」
「全然ない」
「なんかこう、集中した時に、目の前のことしか見れなくなる・・・みたいな」
「ミユキも言ってたよ」
「小説書いてるときとかなんないの?」
「ならないね。私、いつも冷静だからね」
「・・・うーん、・・・?」

何でそこだけ歯切れ悪いんだろうね。
みんな、私がいつでもクールだって知らないよね。

「話は変わるんだけどさ、あの、佐藤さんさ・・・」
「何?」
「あのー・・・放課後、暇?」
「うん、松永君で取材最後だし」
「そっか、じゃあ、あの・・・」
「ん?」
「応援してくれませんか!!」
「・・・あっ、練習試合の?」

がくんがくんと松永君の坊主頭が上下に揺れる。


103: ゆと☆2013/05/05(日) 20:21:32 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「うん、いいよ」
「よっしゃあああああああ!」

・・・よく分からないテンションで喜ばれてしまった。ちょっと怖いから距離をとる。

「いや、あの、たいした事出来ないかもしれないよ」
「それでもいいんだ、佐藤さんに見てもらえるだけで!」
「そ、そう・・・?」
「俺、全然出来なくてね」
「何が?」
「野球の話。・・・足も速くないし、打てないし投げられないし。でも、高校入って初めてレギュラーになれたんだよ」
「3年生が引退したから?」
「うん、そう。だから実力じゃないって言えばそうなんだけど、でも俺嬉しいんだ」
「そっか、よかったね」
「うん。打席に入った瞬間から、世界は白くなるんだ」



104: ゆと☆2013/05/05(日) 20:22:22 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
・・・。またそれだ。みんな口をそろえて言う、「世界が白くなる」。
分からない私は、少し寂しい。
なんだ、白くなるって。
なんねーから全然。

「・・・青春だね」
「えっ?」
「なんか、松永君青春してて・・・、ずるい」
「佐藤さんだって青春してるでしょ?」
「全然。みんなが言うような『世界が白くなる』っていうの、分からないもん」
「それで毎日取材してるんだね」
「うん・・・」
「頑張ってるんだね、小説」
「松永君だって頑張ってるじゃない」
「・・・うっ!」

私が答えた瞬間、大きなごつごつとした手で松永君は顔を覆ってしまった。
この人なんか情緒不安定だな。

「あ、昼休み終わっちゃうね」
「あ・・・ああ。それじゃ、また放課後に」
「うん」
「あっ!・・・俺も応援してるからね、小説」
「えっ?うん」

松永君と別れて、私は席について次の時間の準備をする。
数学U。二次関数とか言われても全然分からないけど。
そういえば、数学の問題を解いているときに世界の白さを感じると山原君が言っていた。
あの時の山原君は楽しそうで、いつもあんなに無愛想なのに―――きらきらしていた。
山原君も、松永君も、ミユキも、世界の白さを感じる時にはあんなに輝いているのか。
わかんない。わかんない。わかんない。

私一人だけ、世界から置いてけぼりにされたような気がする。
ずるいよ、みんな。ずるい。


105: ゆと☆2013/05/05(日) 20:22:58 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

今日も図書室はミユキに占拠されていた。

「・・・ミユキ、野球のルール本とかない?」
「あるよ。珍しいね、新作はスポーツ物なの?」
「いや、違うんだけど・・・」
「あっ、応援行くんだ」
「そうだよ」
「はい、これ分かりやすいと思うよ」

『初心者でも分かる野球ルール』。さすがは図書部員、状況に一番即した本を提供してくれる。
ミユキセレクトなので私は安心して読む。何度も読む。

「で、試合って何時から?」
「4時」
「・・・今、5時だよ」
「えっ!?・・・野球の試合って何時間ぐらいやるの!?」
「あー、試合にもよるんじゃない?」
「行ってくる!」
「私も見に行く!待って!」
「待てないよ!!」

二人で廊下を駆け抜ける。
区切られた、窓から、真っ青な空。そして入道雲。

「・・・夏だね、清香!!」
「余裕ね、ミユキ」

グラウンドに、最短距離で到着する。


106: ゆと☆2013/05/05(日) 20:23:31 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
「・・・今どうなってんの?」

と、近くの女子生徒に聞く。と、

「9回裏でうちの攻撃。3対4で負けてるよ」
「松永君がバッターなんだけど、2ストライク取られた」

ダイヤモンドを見ると、・・・塁には誰にもいない。

「もう駄目かもなー」
「負けそうだね」
「まあ対戦相手が悪かったよね」
「なんでー?」
「昔甲子園行ったことあるんだってさ」
「あ、じゃあ駄目だわ」

そんな何気ない会話が耳に届く。
負けそうなのか。
・・・もう、駄目なのか。そうかそうか。駄目なのか。
・・・。

「駄目じゃないよおおおっ!!!」
「清香!?」


107: ゆと☆2013/05/05(日) 20:24:06 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
全校中の注目が、私に集まる。
いいぞー、もっと、私を見るといい。
もっと、私の言葉に耳を傾けるといい。

私の言葉に、耳を傾けて欲しい。

「松永君は、すごいよおおおおおおおっ!!」
「ちょっと清香!」
「応援してくれて嬉しかった!!だから、遅れちゃったけど、私も応援するよ!!」
「清香!!」
「頑張れ、松永君!!頑張って―――!!」

ああ、自分勝手な言葉だな。
自分は遅れたくせに、「頑張って」だって。
ごめんね。松永君。自分勝手な応援で、ごめんね。



108: ゆと☆2013/05/05(日) 20:24:47 HOST:softbank221046122127.bbtec.net


カーンと、金属が物を叩いた音が聞こえた。
真っ青な空に、真っ白なボールが吸い込まれていく。
松永君がバットを投げ捨てて走り出す。誰かがボールを必死に追いかける。
ボールが、茶色いグラウンドに、音も立てずに転がる。
走る。

―――そのとき、世界が白くなった。
ああ、そうか、これか。
この自分が自分じゃないような感覚が、スローモーションになっていく景色が、遠く聞こえてくる声が。
これが、『真っ白な世界』なのか。

松永君がホームベースを踏んだ瞬間、世界はまた、元に戻った。

「セーフ!!これで・・・4対4!」
「ど、同点って、どうなるの?」
「延長戦だよ!!」
「それって」
「勝てるかも!!」
「・・・うおおおおお!」



109: ゆと☆2013/05/05(日) 20:25:55 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

駄目じゃないんだ。
そうだ、駄目なことなんて、何一つなかったんだ。

「佐藤さーん!!」

松永君の大きな声が聞こえる。

「佐藤さーん、ありがとー!!」
「こっちが、ありがとうだよー!!」

私も、大きな声で答える。
どうか、届きますように。

「・・・ミユキ、分かったよ」
「えっ、何が?」
「世界は、ちゃんと、真っ白になるんだね」

真っ直ぐな気持ちが、少しでも、私の世界を白く染めますように。

「・・・そういえば、感想くれたのって誰だったんだろうね」
「清香って、本当に鈍感だよね」

***


110: ゆと☆2013/05/05(日) 20:33:44 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

唐突ですが、ここで第二回チキチキ解説大会です。
更新やめるやめる詐欺ですね。ちょっと反省しています。


9.ソラドレ

多分この中で一番発表するかどうか悩んだ話。
フィクションの世界でも人を殺してしまうのは気が引けるのですが、ずっと温めてきた作品だったので、そろそろ解放してあげたくて書きました。
誰も悪くないんですが、誰かを悪いことにして逃げたくなります。

小説というよりは設定語りをしてしまったことに後悔があります。もう少し練ればよかったなぁ・・・。

ちなみに「北海道では7月でも雪が降る」ネタは大マジです。


111: ゆと☆2013/05/05(日) 20:39:22 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

10.ききょういろ花火

もともとは演劇部の即興劇で作った話を、せっかくなので作り変えて小説にしよう、という着想でした。
結果、この元ネタとなった話とはめちゃくちゃかけ離れました。
文化祭の時期、意外と美術部が毎年大変そうにしているのも発想のもとでした。

ことの経緯が経緯なので、視覚に頼っているところが多々あります。
そこはなんとか文章で!・・・カバーできてると良いなあ。

原作の「きつねの窓」は小さなときから大好きでずっと読んでました。
ラストの描写が切なくてキュンとします。おススメです。


112: ゆと☆2013/05/05(日) 20:42:41 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

11.人間失格、という名誉な烙印

「人間失格」を読み返した後にほとんど衝動的に書いていました。セリフはほぼ原作からの引用です。

自分をものすごく分かっていながらもコントロールの仕方が分からなくて困っている人をよく見かけます。
葉蔵も多分その口だという主張。

文章が厨二してて笑っちゃいます。


113: ゆと☆2013/05/05(日) 20:47:45 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

12.真っ白な入道雲、真っ青な僕ら人生の春

ひとさまの経験談を勝手に小説にしてはいけません。

元野球部の友達が話していたことをまるまんま文章にした感じです。ごめんね友達。
でも、私はスポーツはやっていませんが、ときたま「世界が白くなる」ことがあります。
専門用語でいうところの「ゾーン」ってやつでしょうか。

主人公の性格がすごくイタいです。
書いている途中で心にズキズキ来ました。
展開にも若干の無理がありますが、そこは主人公のキャラに救われた感じです。

もうすぐ、夏ですね。


114: ゆと☆2013/06/26(水) 21:01:24 HOST:softbank221046122127.bbtec.net
小説の更新が久しぶりです。
・・・って言っても、たったの1カ月なんですが。

***

都会(って言ってもただの地方都市)の公立高校にわざわざ進学してしまった過疎地域の私が一番最初に注目したのが都会人のゴミの分別に対する心構えであった。

いやいやいや。燃えるゴミとプラスチック一緒にするなっていうか。

汚れていればプラスチックでも燃えるゴミとかそんなトンデモ理論通用しねえよっていうか。

よくよく調べてみれば私の出身地は全国的にも厳しいゴミの分別してるんだなっていうか。

とにかく田舎者ですみませんね、私は高校に入って一番の関心事はゴミなんですよ。



プラスチック


***


115: ゆと☆2013/06/26(水) 21:02:33 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

***

「燃えるゴミってそっちにもある?」
「ううん」
「じゃあこれだけだね・・・樹さん、何持ってる?」
「プラスチックとペットボトル。一緒に捨てちゃっていいのかな?」
「や、駄目」

思わず自分でもびっくりするくらい、厳しい声が出た。

学校の塵芥処理室はなんだか薄暗くて、なんだか空気も薄いような気がする。
放課後、教室掃除のゴミを捨てるためにはじめてここに来たわけだけれども、これはだめだ。
ゴミに一家言ある私でも、ちょっとだめだこれ。この場所耐えられない。

一緒にやってきた同じ班の樹さんもなんだかぼんやりしているし、さっさと終わらすためには多分私が本気出さなきゃいけない。ああ。

「ペットボトルはペットボトルで捨てるところある。そっち」
「あ、そうなんだ」
「カバーは外して廃プラ、あとキャップも外して専用の箱に捨てないと」
「詳しいんだね」

樹さんがきょとんとしている。
ヤバい。これは、やりすぎた。

「あー・・・。私信川から来てるんだけど、分別が厳しいんだよ」
「へえ。・・・信川から通ってるの?一時間くらいかかるね」


116: ゆと☆2013/06/26(水) 21:03:44 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「あ、でも、うちのクラスもっと遠いところ・・・小桜から通ってる人いるよね、斎藤君だっけ」
「え、誰?」
「顎長くて、猪木みたいな男子だよ」
「そんな人いたっけ?」
「いたよー、覚えてあげなよ・・・」

割と斎藤君の顔って、見たら一発で分かるくらい個性的な顔だと思うんだけど・・・。

樹さんってちょっとぼんやりしていて変わっているとは思っていたが。
入試の成績が一番だったと聞くけれど、頭がいい人ってみんな変わってるのだろうか。・・・もしや。

「・・・私の名前、覚えてる?」

そんな私のある意味失礼な問いかけに、

「えーと・・・」

やっぱり思い出せないみたいだった。この人・・・。
私がどんな顔をしていたかは分からないけれど、いきなり樹さんは焦り出す。

「あ、ええと、ごめんね。成海・・・」
「おお」
「成海、えりかちゃん?」
「えりこです」

やっぱりだった。

「ごめん、ごめん。・・・えりこちゃんね」

そうやって樹さんが微笑み返す間にも、時間は過ぎて行く。

樹さんが持っているゴミ箱の中のペットボトルは、一向に仕分けされていなかった。

「樹さん、手伝うよ」
「あ、・・・ありがとう。」




117: ゆと☆2013/06/26(水) 21:04:47 HOST:softbank221046122127.bbtec.net


「成海さんは、」
「え。」
「成海さんは部活どうするの?」
「吹奏楽かなー」
「へぇ」
「本当は合唱部に入りたかったんだけど・・・、この学校、合唱部ないんだもんね」
「確認してなかったの?」
「うん、あるだろうと思いこんでました」

そこは私もアホだった。

っていうか、「あったらいいなぁ」くらいのもんで、あんまり部活動を重視してこの学校に入らなかったといいますか。

ああ、でも。久しぶりに、歌いたい。

「うーさーぎーおーいし、かーのーやーまー・・・」
「えっ、どうしたの」
「・・・うさぎって、おいしいのかな。信川にうさぎ食す文化はないんだけど」

幼いころからの疑問だった。
メロディーは好きだけど、かわいいうさぎを食べる勇気まではないのでちょっと『ふるさと』は悩みどころ満載である。

「それ、食べる『おいし』じゃなくて、追いかけるっていう意味の『おいし』じゃないかな」
「え、そうなの」

ていうかなんで『おいし』で追いかけるっていう意味になるんだ?

「成海さんって面白いね」
「いや、照れる・・・」
「あ、照れるんだ・・・。・・・・・・。えーと、J−POPとかは歌うの?」
「歌うよ。perfumeとか好き。くりかーえーす、このポリリズム・・・」
「歌うまいね」
「ありがとう」

樹さんとこんなに話すのははじめて、というか、樹さんがこんなに誰かと話しているのを聞くのがはじめてだ。


118: ゆと☆2013/06/26(水) 21:05:55 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「樹さんは?部活入るの?」
「いや、私、部活はちょっと・・・」
「やっぱり勉強で忙しいのか」
「え、なんで」

やっぱりこの人、ちょっとぼんやりしているのか。
それとも勉強しないでも点数がとれる天才気味な人なのか。

「いや、だって・・・入試一番だったんでしょ?」
「・・・。いや、そんな。・・・大したことないし」
「樹さんが大したことなかったら私なんてどうなるのさー」

ちなみに私は下から数えた方が早かった。
私立の滑り止めも危ぶまれていました。

「・・・ほんと。そんな・・・」

・・・あれ?
樹さんの表情が曇っている、ような気がする。
気がするっていうのは樹さんの髪が長くて顔が見えないからであって。

あー、ええと、つまるところなんだ。触れられたくないのか。

私は勉強できないけどバカじゃないぞ。

「まあ、これからお互い頑張ろうね。なんか、色々と」
「うん・・・」

そしてこういうシリアスな場面で頭が働かないのもどうにかしたい15の春。

「みんな、分別して捨てろよー・・・」

こんなどうでもいい、そしてわざとらしい言葉で場を取り繕うくらいしかできないのが悲しい。

「知らないんだよ、みんな」
「悪気がなくてもさ、よくないよこういうの」
「でも、仕方ないよ」
「仕方ないで人生はどうにもならんのさー」

そう、私が頭良くないのも仕方がないと言えば仕方ないが、言ってしまえばそこで終わりだ。
樹さんは少し微笑んで、作業の手を少し速めた。

その時、きいいい、と重たいドアを引く音がした。他のクラスの人かな?


119: ゆと☆2013/06/26(水) 21:06:53 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

ふり返ると、ゴミ袋を抱えた女の子二人組。

「あれ?・・・樹ちゃんひさしぶり!!」
「あ。・・・久しぶり」

どうやら樹さんの知り合いらしい。

「えー、ちょっと、誰?」

と、二人組のもう一方は知らないらしく知り合いさんに声をかける。と、

「入学式であいさつしてたじゃん。入試一番の子!」
「え、すげー!超頭いいじゃん!」
「・・・いや、そんな」

わいわいと盛り上がる二人組女子。

いいんだけどさ、今無造作に捨てたペットボトル、燃えるゴミじゃないから。
都会人マナー悪すぎ。

「いやー樹ちゃんと一緒でよかった!なんか、大学付属受けるって聞いてたからー、そっちに行くんだと思ってた!!」
「あ・・・。」

・・・。ああ。そういう、ことか。

「ねえ、もう行こうよー?」
「あ、うん。・・・樹ちゃん、またねー」
「うん・・・。・・・」

嵐のように二人組が去ってゆく。

樹さんは、ペットボトルを手から取り落としたのも気がつかずにぼんやり立ち尽くしていた。

えーと。
神様、こういう時に対応できる頭脳をください。
・・・と祈ってもどうにもならんので、今できる事をするしかない。


120: ゆと☆2013/06/26(水) 21:07:44 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「友達?」
「同じ中学の人」
「ふーん。・・・どうでもいいけど、あの人たち燃えるゴミにペットボトル捨てたよね。もう、やめてほしいよねー。ね?」
「・・・」
「・・・樹さーん、手伝って」
「うん。・・・」
「多いねえ、もう・・・」
「・・・仕方ないよ。」

樹さんはそういいながら、ペットボトルから剥いだプラスチックを握りしめる。

ぎゅっと握りしめられたそれは、ぱきぱきと乾いた音がした。

「・・・あのさ、プラスチックってどういう意味だっけ?」
「え?」
「あ、いや、プラスチックって、日本語に直すとかっこいい四字熟語にならなかったっけ?」
「・・・『合成樹脂』のこと?」
「ああ、それか。さすが樹さんだ」
「・・・いや・・・」

神様神様。
私、樹さんと仲良くなりたいです。

ちょっとぼんやりしてるけど、私のアホな発言にもちゃんと答えてくれる、樹さんと仲良くなりたいです。

神様。ああ、でも祈ってもどうにもならない。
なら、私らしくやるしかないですね。


121: ゆと☆2013/06/26(水) 21:10:11 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

「私、ずっと『前向きっぽい』だと思ってたよ」
「え?」
「『プラス』と『チック』で切ってた」
「え、なにそれ。・・・ふふ」

笑ってくれたよ。
樹さんが笑ってくれた。

「小学生の時にね、こいつらは前向きだからリサイクルして何度でもやり直せるって思ってたんだよ。バカだねー。いや、今もバカだけど。」
「ははは、なんだそれ。・・・成海さんって面白いね」
「いや、照れる・・・」
「照れるんだ」
「・・・。まあ、だから、なんだ。樹さん」
「ん?」
「プラスチックに行こう。」

クサいよなあ、自分で言っててむずがゆいです。
でも。これで、樹さんが笑ってくれるなら。
こんなお寒い会話でも。

「え、えっと、さっさと仕分けしちゃおうか!」

でもやっぱり恥ずかしさが勝った。
あああ、ガラじゃねえー。

「・・・私、」
「え?」
「私、ボランティア部に入ろうかな」

ぽつり、それは小さなつぶやきだったけれど。

「ペットボトルのキャップ、集めたりとかしてさ。」

それは確かに、樹さんの『プラスチック』だった。

「いいね、それ。っていうか私も吹奏楽よりそっちがいい」
「・・・ありがとう」

これから、ゴミを二人で仕分けて、教室に帰って、それから、何をしよう?

君と友達になるのに、時間はたっぷりある、15の春。

「くりかーえーすー、このポリループ、」
「ああプラスチック、みたいな恋だー。」


とりあえず歌い終わった時に、下の名前で呼んでみよう。


***
もともととある企画でポシャった台本でした。
が、どうも小説にすると会話に違和感のある話ですね。


122: 瑠音 (P8WrpGIUzo)☆2013/07/01(月) 21:05:15 HOST:p37083-ipngn1301hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
小説評価を受け付けました。
評価レベルが『厳しく』だったのでそれなりの評価をしますが、
『中傷だ!』と思った場合は小説評価掲示板にてお伝えくださ
い。
改めて評価します。

また、100レス以上あるのでまず>>1-100までの評価をしま
す。
ですが、私も1エピソードずつ全てを評価できる素晴らしい人間
ではないのでストーリー性や書き方等の全体的な評価をしていき
ます。


書き方は普通に上手いです。特に下手なとこもなくいいと思いま
す。
自覚はしていらしている様ですが、他の小説評価の方々が言って
いる通り、心理描写、心情描写が少し足りていません。

私の感覚ですと、心理描写が多い小説は『典型的な下手な小説』
(失礼)で、背景描写が多い小説は『上手いんだけど、何かー…』
(もっと失礼)な小説に感じてしまいます。

どちらにしろ、どちらかが欠けていると読者を引き付けることが
出来なくなるので、そこは、他の方の小説や市販の小説を見て上
達していただきたいです。



ストーリーはどれもいいです。
現実性があるものもあれば、少しフィクションがわかるやつもあ
る、小説らしい小説です。

また、作者様はそのストーリーを考えてきちんと書かれているの
で頑張っているのが伝わります。


では、>>1-100の評価を終わります。評価は続きます。


123: 瑠音 (P8WrpGIUzo)☆2013/07/05(金) 16:13:59 HOST:p37083-ipngn1301hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
遅れましたが続きです。>>101-の評価をします。

気になったのが作中によく出る『・・・。』なのですが、・・・は少なくしてもいいです。また、変換して3点リーダーにすると見やすいです。

そして、気にしていらした(?)心理描写の方ですが、今度は少し多いかな…と私は感じています。
個人の意見なので気にしなくて結構です。


>>101-のストーリーも前回と同じく読んでいて楽しいです。
長編小説にチャレンジするのもいいと思います。


指摘した所を直せばとても素敵な小説になると思います。
上達できるよう頑張ってください。

評価依頼ありがとうございました。


124: ゆと☆2013/08/07(水) 11:47:44 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

幕間

幕が閉じられた時、私たちはただ泣いていた。
いまだに観客から届いてくる、歓声、拍手、笑い声、全てを包括した、舞台のこの空気。
私たちは泣いていた。

「泣くのは後にしなさい!!今は撤収に集中!!」

という顧問の声で、やっと私たちは我に帰って舞台撤収を始めた。

***

高校演劇で規定されている撤収の時間は10分。
ちなみに最初の仕込みに20分。
上演時間60分。
総計して90分、僅かそれだけのために、私たちは今まで青春の全てをかけていた。

全ての荷物をトラックに積み込み、1,2年生を次の舞台鑑のために走らせた後の3年生は、真っ白に燃え尽きていた。
燃え尽きていた、というと語弊か。
満足感に、浸っていた。
もちろん上手くいかなかったこともたくさんあった。噛んだところがある。タイミングをミスしたところがある。それでも、それでも。

今も耳で鳴り響く、あの歓声、拍手、笑い声。

私たちはこのためにやってきた。
その気持ちが届いたなら、それでいいのだった。


125: ゆと☆2013/08/07(水) 11:48:29 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

正直私の2年半は、みんなよりも動けていたわけではなくて、あまり成長もしていないような気がする。
それでも、私は演劇部に入部して、良かったと思うのだった。
慣れない土地で走り回り、すっかり汗ばんだ体で微笑む。

「…良かったね」
「…うん、良かった、楽しかった」

何が、とは、私たちはお互いに言わない。

***

畢竟、私たちの演劇はあともう少し期間が延びた。
ただもう私たち3年生が引退したことには変わりなく、これからの我が校の演劇部は、頼りないけれど、優しくて頑張り屋な後輩たちにバトンタッチすることとなった。
寂しくないわけではない。一生あの部室で笑っていたかった。

それでも、目を閉じれば、あの歓声、拍手、笑い声。

私たちは、泣いていた。
泣きながら、笑っていた。
笑いながら、私たちは演劇を愛していた。


126: ゆと☆2013/08/07(水) 11:56:52 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

恒例の解説大会です。
作品は溜まっていませんが、私の舞台が一度幕間に入りましたので、もういい頃合いかなと思いまして。

13.プラスチック

今まで言われてきた「心理描写」というのを細かくやってみよう!と思って頑張って書きました。
逆にやりすぎました。撃沈です。匙加減が難しいですね。
瑠音様、ご指摘ありがとうございました。

春の新入生歓迎公演の台本コンペで出そうと思って、
「この方向性、他のみんなも書いてくるだろうなあ」
と思って自分で没にした作品です。
文章にしたら何か変わるかなと思って書きましたが、やっぱり方向性自体がアレでした。
個人的に話のネタとしては好きです。


127: ゆと☆2013/08/07(水) 12:04:24 HOST:softbank221046122127.bbtec.net

14.幕間

ノンフィクションです。
もしかしたら学校がバレるかもしれません。
が、気にせずに今思っていることをただ書き連ねました。
10年後にこれを読んだら噴き出しかねません。

本番から数日たった今もまだあの歓声と拍手と笑い声が忘れられません。頑張って2年半演劇部の活動をやってきてよかったと思います。
私は、演劇を一生愛する事でしょう。

少しでも高校演劇の世界に興味を持っていただけたら幸せです。

***

なんだかんだいってもう受験が迫っているので、小説を投稿することはもうないと思います。…多分。
っていうかこんな時期までネットやるなよ、って感じです。
ここで小説を投稿し、色々な方に評価をしていただいたり、色々な方と話せたのはいい経験になりました。

みなさま、本当にありがとうございました。


128: ゆと☆2017/11/13(月) 22:58:31 HOST:softbank126009202197.bbtec.net
 卒業式は雪だった。

 ここはどうしようもなく北国の田舎で、どうしようもなく雪の降る土地だった。
 だから三月になっても雪が降っていることなんてこの土地の人間だったら特段驚くことでもなんでもない。今年の三月も例年通り雪がちらちらと舞っていた。

 卒業式終わりの空気はどことなく浮ついていた。
 三年間の高校生活からの解放と、少しの寂しさ。
 この学校一番の大所帯の部活、吹奏楽部は玄関前に長蛇の列を作って、後輩は卒業生ひとりひとりに花束を渡していた。
 先生たちは生徒たちの盛り上がりから逃れるようにして、二階の職員室から見守っているだけだった。

 チア部はこれからみんなでお好み焼きを食べに行く予定だった。この三年間、卒業生を送り出す会合は決まって駅前の洒落たお好み焼き屋さんだった。
 暗くなってきたところで解散。まだつるんでなにかしたい人たちはカラオケへ、親と過ごしたい人は家へ、まだ大学が決まっていない人は予備校へ行くのがお決まりのコースだった。
 高校から始めたチアリーディングだったけど、三年間勉強そっちのけで熱意を傾け三年の頃には部長をやったくらいなので、今でも第一志望に受かったのはなにか奇跡の類なのだと思っている。

「みかげ先輩!」

 玄関を出ると花音の声がした。快活で運動神経のいいひとつ下の後輩は、私の次の部長だ。
 私たちが秋に引退して時間が経つが、今でも部活の相談のラインが絶えない。そのせいか後輩の中では一番親しい。
 花音はピンクのマフラーに、キャメル色のPコートを着ていた。手袋とイヤーマフはお揃いの花柄。
 冬だというのに、季節はもう春みたいな子だった。

「五組はホームルーム長かったんですか?」
「ホームルームは早かったんだけど、みんなで写真撮ってたら遅くなっちゃった。ごめんね。」
「もう! みんな式が終わってからずっと外で待ってたんですからね! みかげ先輩が最後なんですよ。」
「ごめん、ごめん。」

 花音に手を引かれて、予約していた店へ向かう。
 気だるげな午後一時。振り向くと、定時制の方の卒業式の準備が始まっているようで、渡り廊下を走る先生たちは随分と忙しそうだった。



さよなら、インディゴライト




129: ゆと☆2017/11/13(月) 23:01:17 HOST:softbank126009202197.bbtec.net

 お好み焼きを食らう会は食べ放題の二時間で終了した。
 私は一度家に帰ってから夜にまた両親と外食する約束だった。お店から家まで歩いて帰ると三〇分はかかるので、車で迎えに来てもらう予定だった。
 店先で親を待っていると、花音が近づいてきた。

「みかげ先輩。」
「あ、花音。今日はお店の予約ありがとね。今度はいつ来られるのかなぁ……」
「みかげ先輩。私と一緒に、逃げてください。」
「……は?」

 花音が今何を言ったのか、一度では理解不能だった。

「お願いします。逃げてください。」

 花音は冗談が好きだ。部活中だっていろいろな冗談を言って部員を笑わせていた。時にそれが休憩の時だけでなく練習中にも及んだのでよく注意したものだ。
 今回だって、きっと卒業が寂しくて、つい口をついて出た冗談だったのだろう。去年の私も先輩に「卒業しちゃ嫌です〜」とわがままを言って困らせた。きっとそれだ。

 雪は昨日の夜から降り続けている。
 雪には音を消す効果があるとどこかの小説で読んだことがある。果たしてそれが本当なのか私には分からないけれど、今はそれを信じたい。
 信じなければ、いつも冗談ばかり言う花音の唇がわなわなと震えていることに説明がつかないから。

「花音?」

 その手が行き着く場所なんてないのに、つい、花音に手を差し伸べてしまった。花音は私の手を掴んで駅へと走り出した。
 引っ張る力は思ったよりも強かった。伊達に普段から鍛えていない。成長したんだな、と妙に感動した。

「待って! 花音!」

 定期を改札に通してホームに出た瞬間、到着していた適当な列車に飛び乗った。行き先は、私も花音も確認していなかった。
 車内、人はまばらで、私たちは近くの座席に並んで座った。ちらと確認すると私たちが乗ったのはどうやら快速急行のようだった。
 これじゃ、近くの駅で降りて帰るということは当分できなさそうだ。とりあえずお母さんにメールをいれた。

「……ごめんなさい。」

 隣から、掠れた声が聞こえる。花音は俯いていて、表情は見えなかった。
 そして、私は花音が今どのような表情をしているのか想像することもできなかった。本当に申し訳ないと思っているのか、こんなことをした理由を聞かせてくれるのか、それも分からない。多分彼女は教える気もない。

「乗っちゃったものはしょうがないよ。次の停車で降りて迎えに来てもらおう。」

 花音から返事はなかった。私は私で嫌に冷静だった。
 窓の外は暗くて、雪だけが白く光っていた。降る雪を見送っていく。それ以外にこの空気をやり過ごす方法がなかった。
 アナウンスによると次の停車までは三〇分以上ある。
 花音は相変わらず俯いている。雪は勢いを増してきた。



130: ゆと HP☆2017/11/13(月) 23:04:55 HOST:softbank126009202197.bbtec.net

 夜の無人駅は寒かった。体感温度だけではなく、駅の佇まいそのものがすでに寒々しい。
 丸太でできたウッドハウス風の小屋は今は雪に濡れて貧相だと思ったし、一本だけで足元を照らそうとするライトは無茶があると思った。

 お母さんからのメールによれば雪のせいで一時間はかかるそうだ。多分、帰ったら怒られる。私のせいではないけれど。

「迎えまでは一時間かかるって。」

 隣の花音に声をかけた、つもりだった。隣に花音はいなかった。「うそ。」と思わず声に出した。

「花音! 花音!」

 先程までの挙動不審な彼女を思い返して、考えたくもないけれど最悪の結果が脳裏に浮かぶ。
 無人の改札を出て、花音を探す。雪がやけに鬱陶しい。

「勝手に殺さないでくださいよ、縁起でもないなぁ。」

 花音の声が横から聞こえた。見れば見慣れたイヤーマフ。
 いつもの顔をして、隣に平然として立っていた。花柄の両手袋には二つの缶ココア。差し出されては受け取るしかない。

「……ありがとう。」

 ぷしゅ、と詰まった空気が抜ける音がして、湯気が立った。小さな飲み口に雪が入るたび波立った。冷めたら嫌なので口に入れると、いつもよりも甘ったるい味がした。

「なんで怒ってくれないんですか?」

 花音がそんなことを聞いてきた。聞いたこともない声だった。甘えているのでもない、冗談を言うのではない、ただ静かな口調。
 部長として、先輩として、花音のことはもっと知っていると思っていた。

「だって……。責めても仕方ないでしょ。怒るっていうか、意味分かんないし。」
「意味分かんないですよね。」
「……うん。ごめん。」

 なぜか私が謝っている。
 ココアは急速に熱を失っていくようで、それがもったいなくて早く飲むようにしたけれど、三口目にはもうぬるかった。
 花音を見ると、彼女は蓋を開けていないようだった。手袋を外して、赤くなった指先で缶を弄んでいる。

「みかげ先輩。」
「うん。」
「卒業しないで。」

 私が言葉を失った瞬間、花音はこちらを見た。目が合う。栗色の大きな瞳がぱち、と瞬きをするたびに、花音の瞳は潤んでいった。多分、私も見えていない。
 大きな瞳からは大きな粒の涙が流れているようで、一粒彼女の頬を伝った瞬間決壊した。どうしたらいいのか分からなくて頭を撫でたらはねのけられた。

「ばか! ばか!」
「なんで……」
「ばか! みかげ先輩のばか! みかげ先輩なんか、みかげ先輩なんか!」

 花音がそう言った瞬間、風が雪を舞い上げた。花音の前髪も、花音の涙も、私のポニーテールも、降りしきる雪も、踏んでいる雪も、全部持って行かれた。何もかも。
 いつの間にかココアを落としていたようで、俯くと雪があまく茶色かった。




131: ゆと HP☆2017/11/13(月) 23:07:33 HOST:softbank126009202197.bbtec.net
 花音から向けられた感情に、偏見もなければ嫌悪感もどうしてか、ない。

「……ごめんね。」
「謝るの、なんでですか。」
「なんか、謝らなきゃいけない気がした。」
「……そんな一言で、無かったことにしないでくださいよ。」

 その言葉が突き刺さった。
 でも、憧れをすり替えたみたいな、そんな感情には応えられない。
 応えてしまったら多分戻れないだろうし、きっと花音は私に甘えて駄目になってしまう。そんな花音もチア部も見たくない。

「頑張れ、花音。」

 だから、私に言えるのはそれだけだった。
 冷たいと思う。
 時間をかけて考えもしないで、ありきたりな言葉に逃げただけのように思われるかもしれない。そう思われていたとしたら、舐められていると思う。
 花音が頭を私の肩に押し付けてきたので、引き寄せて抱きしめてやった。おそらく、これくらいは先輩として許される行為だと思う。
 花音の背中に手を回した瞬間、チア部で過ごした三年間が鮮やかに目の前で蘇った。
 毎日の走り込みと基礎練習。初めて大技ができた瞬間。野球部の大会の吹奏楽部の音と草いきれの匂い。秋の大会での敗退。花音を抱きしめて、少しだけ泣いた。
 あの小説が正しいならば、少しくらい声を出したって消してくれるはずだ。

「頑張れ、部長。」

 ポケットに入れたスマートフォンから着信音が鳴った。きっとお母さんだ。
 心の中で謝って、花音の頭を撫でた。花音の頭は赤ちゃんのように温かかった。
 遠くでクラクションが聞こえた。雪が赤色に明滅していた。
 
 三月で雪が降っても、この土地の人間は驚かない。ここはどうしようもなく北国の田舎で、どうしようもなく雪が降る土地だからだ。冬に閉じ込められているような土地だから、春が来るのはまだもう少し先のことだ。
 でも、いつまでも冬ではないことを私も花音も知っている。


 春からは冬のこない土地で、私は花が咲くのを待ちわびる。




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